東京高等裁判所 昭和25年(く)89号 判決
よつて先ず抗告申立人主張の(一)の点について検討するに、本件記録第二十四丁綴込の求意見写及び同二十五丁綴込の名取春芳宛刑の執行猶予取消請求意見書の郵便送達報告書に徴すると、原審は刑事訴訟法第三百四十九条第二項の規定に従つて、昭和二十一年十一月十五日被告人である抗告人に対し執行猶予取消についての意見を求めるための求意見書を送附し、右求意見書は同月十九日抗告申立人に送達されたことが明認できる。しかして同規定の趣意は被告人又はその代理人に意見を述べる機会を与えれば足りるのであつて、必ずしも被告人又はその代理人の明確な意見の到達を待たなければならないという趣旨のものではないと解するを相当とする。従つてこれに対し抗告人から所論のような意見陳述方猶予願が原審に提出されたことは記録によつて認められるけれども、原審が被告人に対し意見を述べる機会を与えた以上抗告申立人よりの意見申述の延期の願出を斥けて執行猶予を取消す旨の決定をなしたのは相当であつて、原決定には所論のような違法は存しない。よつて(一)の主張は理由がない。
しかしながら職権を以つて調査するに、本件執行猶予取消決定の対象となつた伊那区裁判所が昭和二十二年一月二十日抗告申立人に対して言い渡した建造物侵入、窃盜罪に因る懲役二年、四年間執行猶予の判決は同月二十八日確定したこと抗告申立人に対する前科調書の記載によつて明らかであつて、右猶予期間内に甲府簡易裁判所の執行猶予取消決定がなされたけれども、これに対し適法な即時抗告の申立があつた結果右取消決定が確定しない間に、昭和二十六年一月二十七日を以つて猶予期間である四年を経過したこと明らかであるから、右期間の経過により前記伊那区裁判所の言渡した刑の言渡は刑法第二十七条によつて既にその効力を失つたものと認めるの外なく、従つて執行猶予の言渡を取消すこともできないものであるから本件刑の執行猶予の言渡取消の請求は結局理由がないことに帰着すると解せざるを得ない。よつて、刑事訴訟法第四百二十六条第二項に則つて原決定を取り消し、本件刑の執行猶予言渡取消請求はこれを棄却することとして主文のとおり決定する。